個人事業の廃業手続き一覧と廃業年の確定申告

事業をやめると決めたとき、何から手をつけるべきか悩んでいませんか。
廃業届を出せば手続きはひと段落したように感じられます。
ですが、「残った在庫はどう処理するのか」「事業用の車を売った分はどこに書くのか」「廃業した後に届いた請求書は経費にできるのか」「翌年の確定申告は必要なのか」といった疑問が次々と出てきて、どうすればいいのだろうと頭を悩ませていませんか。
廃業年の手続きは、届出書を1枚出して終わりではありません。届出の提出先は税務署だけでなく、都道府県や市区町村にもわたります。さらに、廃業した年の確定申告には、通常の申告とは異なるルールや処理が適用されます。慣れない手続きを進める中で、戸惑いや不安を感じるのも自然なことです。
一方で、手順とルールを押さえておけば、廃業年ならではの特例を活用できる場合があります。期限内に手続きをすることで選べる取扱いもあり、避けられたはずの税負担を抑えることにつながります。
本記事では、個人事業を廃業する年に必要な届出と、廃業年分の確定申告で押さえておきたいポイントを提出先ごと・確定申告の論点ごとにまとめました。完全に事業を終える方、法人を設立して引き継ぐ方にも共通する内容です。ご自身のステップに合わせて、必要な箇所からご活用ください。
まず決めるのは「廃業日」
各種届出書や確定申告書には、「廃業日」を記載します。実務上は、最後の売上が発生した日、店舗を閉めた日、事業用資産の処分をおおむね終えた日など、事業活動が実質的に終了したタイミングを踏まえて決定しましょう。
廃業する時期による主な特徴
- 年末(12月31日)
所得税の計算期間(暦年)と一致するため、帳簿の締め作業や申告準備を効率的に進められる - 年の途中
個人事業税の事業主控除額が月割計算となるなど、税務上の計算方法が一部変化する
税負担を減らすことを目的に、実態と異なる日付を廃業日とすることは避けましょう。
制度に沿って選択肢を選ぶ「節税」と、事実に反する申告や実態を伴わない形式操作(脱税・租税回避)は性質の異なるものです。
本記事でご紹介する特例は、いずれも法令や通達に定めのある取扱いですが、実際に適用できるかどうかは個々の事実関係によって判断されます。廃業日については、ご自身の事業の実態にきちんと即した日付を選ぶことをおすすめします。
税務署に提出する届出と期限
| 書類 | 対象となる方 | 提出期限 |
|---|---|---|
| 個人事業の開業・廃業等届出書 | 廃業する方 | 廃業した年分の所得税の確定申告期限 |
| 所得税の青色申告の取りやめ届出書 | 青色申告の承認を受けていた方 | 青色申告を取りやめようとする年の所得税の確定申告期限 |
| 事業廃止届出書(消費税) | 消費税の課税事業者で、廃止する事業のほかに課税売上げがない方 | 速やかに |
| 給与支払事務所等の廃止届出書 | 従業員や専従者に給与を支払っていた方 | 廃止の事実があった日から1か月以内 |
| 予定納税額の減額申請書 | 予定納税の通知を受けた方 | 第1期分・第2期分は7月1日から7月15日、第2期分のみは11月1日から11月15日 |
提出期限が土曜・日曜・祝日等に当たる場合は、その翌日が期限となります。
廃業届の提出期限
廃業届の提出期限自体には多少の余裕がありますが、関連する他の手続きには短い期限が設けられています。
- 給与支払事務所等の廃止届:廃止日から1か月以内
- 個人事業開業・休業・廃業届出書(神奈川県の場合):廃止日から1か月以内(自治体により異なります)
また、廃業届を提出しないままでいると、翌年以降も確定申告の通知が届き続けるといった不都合があります。「青色申告の取りやめ届出書」と併せて、廃業後1か月以内に必要な書類をまとめて提出することで、漏れなくスムーズに対応できます。
ただし、予定納税の減額申請だけは例外となります。申請できる期間が7月と11月に決まっているため、廃業のタイミングとは分けてスケジュールを管理しましょう。
廃業を証明する書類の残し方
そのため、廃業後に「小規模企業共済」(中小機構が運営する、個人事業主や小規模企業の経営者のための積立型の退職金制度)の共済金を請求する際など、廃業の証明書類が必要になる場面では注意が必要です。税務署に書面で廃業届を提出しただけでは、証明書類として足りない場合があります。
中小機構の案内では、次のように取り扱うとされています。
- e-Taxで提出し、廃業届に日付や受付番号が印字されている場合 → 廃業届のみで可
- 日付や受付番号の印字がない場合(書面で税務署に提出した場合を含む) → 次のいずれかを添付
・e-Taxで提出した際の受信通知(メール詳細)
・都道府県税事務所に提出し、収受されたことがわかる廃業届
・事業の許認可を行う官公署に提出し、承認されたことがわかる書類 など
後々の手続きで困らないよう、e-Taxで提出して受信通知を保存しておくか、都道府県税事務所に提出した廃業届の控えを残しておきましょう。
小規模企業共済については下記の記事で詳しく解説しています。

青色申告の取りやめ届
見落とされやすい注意点として、事業所得と不動産所得の双方で青色申告を行っているケースが挙げられます。
青色申告の承認は、所得の種類別ではなく「納税者個人」に対して与えられる仕組みです。そのため、事業活動のみを終了して不動産賃貸業を継続する場合に「青色申告の取りやめ届出書」を提出すると、不動産所得に関しても青色申告の適用対象外となってしまいます。
廃業届については、国税庁の記載要領で、事業所得を生ずべき事業を2以上行っている方がその事業の全部を廃止する場合は「全部」に、一部を廃止する場合は「一部」にレ印を付すこととされています。「一部」にレ印を付した場合は、廃止する事業を括弧内に簡記します。
所得の種類欄と併せて、どの事業をやめるのかが分かるように記載しましょう。
翌年以降は、不動産所得について引き続き青色申告決算書(不動産所得用)を提出します。青色申告の承認自体は続いているため、改めて承認申請をする必要はありません。
予定納税の減額申請
年の途中で廃業した場合、前年の所得に基づく予定納税の通知が届いていることがあります。
国税庁の案内では、廃業や休業、失業をした場合などで、本年分の申告納税見積額が通知された予定納税基準額よりも少なくなると見込まれるときは、予定納税額の減額を申請することができるとされています。
予定納税の減額申請は「申請期限」に注意しましょう。納付期限よりも前に申請締め切りが来るため、「納付期限までに手続きすればいい」と考えてしまうと間に合わなくなってしまいます。
第1期分・第2期分の申請
- 申請期限:7月15日(第1期の納付期限 7月31日より前)
- 基準:6月30日時点の見積もりに基づき申請
第2期分のみの申請
- 申請期限:11月15日(第2期の納付期限 11月30日より前)
- 基準:10月31日時点の見積もりに基づき申請
通知書が届いたら申請期限を確認しましょう。申請の際は計算の根拠となる書類の添付が必要で、認められるかどうかは税務署の審査によります。
なお、万が一申請が間に合わなかった場合でも、最終的な税額は翌年の確定申告で精算(還付・調整)されます。
令和8年(2026年)分の減額申請の注意点
国税庁の案内では、令和8年度税制改正における基礎控除の見直しは申告納税見積額の計算上は考慮されないこととされています。
基礎控除の引上げ分は確定申告の際に考慮され、最終的な年間の所得税額において精算されます。申請時には改正後の控除増額を見込んで金額を計算してしまわないよう注意しましょう。
本記事の公開時点(2026年9月)では、令和8年分の7月の申請期間は終了しています。これから申請できるのは、11月1日から11月15日までの第2期分のみの減額申請です(10月31日の現況による見積額で判定します)。
インボイス(適格請求書発行事業者)だった場合
廃業に伴う消費税およびインボイス関連の手続きでは、書類の重複提出を防ぐための簡略化ルールが国税庁より示されています。
- 完全廃業をする
「事業廃止届出書」等を提出する場合、「適格請求書発行事業者の登録の取消しを求める旨の届出書」の提出は不要です。 - 「事業の一部のみ」を廃業する
不動産収入など他に課税売上げがあり、インボイス登録を継続する場合は、「事業廃止届出書」を提出しないよう注意しましょう。事業廃止届出書を提出すると、インボイスの登録も失効してしまいます。 - 簡易課税・課税事業者の不適用届出書を出す場合
「消費税簡易課税制度選択不適用届出書」などに事業廃止の旨を記載して提出すれば、他の不適用届出書や「事業廃止届出書」を重ねて提出する必要はありません。
手続き前に「どの届出書を出せば兼ねることができるか」を確認し、不要な書類提出を省きましょう。
税務署以外の手続き
個人事業税は都道府県税です。通常は、所得税の確定申告書または住民税の申告書を提出すれば個人事業税の申告は不要とされています。しかし、廃業した場合は別です。
神奈川県の案内では、個人で事業を廃業した方は、廃止した日(死亡により事業を廃止した場合は4か月以内)から1か月以内に「個人事業開業・休業・廃業届出書」を所管の県税事務所に提出することとされています。この届出書の控えは、前述の小規模企業共済の請求時に廃業を証明する書類としても使えます。
また、所得税の申告書等を提出した場合は個人の事業税の申告書を提出する必要はないものの、事業を廃止した場合(死亡による廃止を除く)には個人の事業税の申告書を提出することとされています。
「事業開始(廃止)等申告書」という名称を用い、10日以内や15日以内としている自治体もあります。お住まいの都道府県の案内でご確認ください。
そのほかの手続き
- 市区町村
従業員の住民税を特別徴収していた場合は、異動届出書を提出します。退職(廃業)日が1月1日から4月30日までは未徴収分を一括徴収し、6月1日から12月31日までは普通徴収へ切り替えるのが原則です。 - 年金事務所・ハローワーク・労働基準監督署
従業員を雇っていた場合は、社会保険・雇用保険・労働保険の手続きが必要です。 - ご自身の国民健康保険・国民年金
就職するのか、法人を設立して役員になるのかで手続きが変わります。 - その他
許認可の廃止届、小規模企業共済や国民年金基金の手続き、屋号名義の口座やリース・賃貸借契約の解約なども確認しましょう。
廃業した年分の確定申告
廃業した年分の確定申告を行う場合は通常の年とは異なる点があります。
① 廃業しても、その年分の申告は原則必要
② 売掛金・買掛金は「発生ベース」で廃業年に計上
③ 在庫(棚卸資産)の処理
④ 事業用資産の売却は原則「譲渡所得」
⑤ 廃業した後に生じた費用も、廃業年の経費にできる
⑥ 個人事業税の「見込控除」
⑦ 赤字で廃業した場合の純損失の繰越し・繰戻し
以下で詳しく解説します。
① 廃業しても、その年分の申告は原則必要
廃業した年に事業所得があれば、翌年に確定申告が必要です。1月1日から廃業日までの所得を計算し、他の所得(給与、年金、譲渡所得など)と合わせて申告します。
② 売掛金・買掛金は「発生ベース」で廃業年に計上
売掛金や買掛金の処理は、実際の入出金のタイミングではなく、取引が発生した日を基準とする「発生ベース」で行うのが原則です。
- 売掛金(未回収の売上)
入金が翌年であっても、廃業日までに納品・サービス提供を終えているものは廃業年の売上に含めます。 - 買掛金・未払費用(未払いの経費)
支払いが翌年であっても、廃業日までに発生した仕入れや費用は廃業年の経費として計上します。
「お金が実際に動いた年(現金ベース)」で区切ってしまうと、申告漏れや誤りの原因になるため注意しましょう。
③ 在庫(棚卸資産)の処理
廃業時に残った在庫(棚卸資産)は、処分の仕方によって税務上の扱いが異なります。通常の販売以外(自家消費・贈与・格安での譲渡)であっても、一定額を売上(総収入金額)として計上する必要があります。
- 家事消費・自家消費・無償贈与した場合
家族で消費したり、他人に無償であげた場合でも売上計上が必要です。 - 著しく低い価額で譲渡(格安で売却)した場合
通常の販売価額より極端に安い金額で売った場合も、一定の補正・計上が必要になります。
計上金額の基準(所得税の目安)
所得税基本通達39-2では、家事消費等をした場合に、取得価額以上の金額で、かつ通常の販売価額のおおむね70%以上の金額を総収入金額に算入していれば、これを認めるとされています。
また、所得税基本通達40-2では、通常の販売価額のおおむね70%未満の価額による譲渡を「著しく低い価額」による譲渡としています。
在庫を自家消費する場合や、家族・新設法人へ引き継ぐ(買い取らせる)場合は、この「おおむね70%以上かつ取得価額以上」の水準を考慮して設定しましょう。
④ 事業用資産の売却は原則「譲渡所得」
機械や車両などの事業用資産を売却した際、その損益は事業所得ではなく「譲渡所得(総合課税)」として計算するのが原則です(土地・建物は分離課税)。事業所得の売上に含めてしまうと税額が変わってしまうため注意しましょう。
総合課税の譲渡所得には、特別控除があります
国税庁の案内では、譲渡所得の特別控除の額は、その年の長期の譲渡益と短期の譲渡益の合計額に対して50万円とされています。
さらに、所有期間が5年を超える資産(長期譲渡所得)については、その2分の1が総合課税の対象になるとされています。所有期間が5年以内の場合(短期譲渡所得)は全額が対象です。
譲渡益が50万円以下であれば、特別控除によって譲渡所得は生じません
長年使ってきた車両や機械を処分する程度であれば、この範囲に収まることもあります。
なお、取得価額10万円未満の少額資産や一括償却資産のうち業務上重要でないもの、貸衣装業の衣装のように事業の性質上繰り返し売却するものについては、譲渡所得ではなく事業所得として扱われます。該当しそうな場合は個別に確認しましょう。
資産を売却せず廃棄(処分)した場合は、固定資産除却損の計上を検討します。また、一括償却資産は3年間で均等に必要経費に算入する仕組みのため、廃業時点で未算入の残額が残っていることがあります。廃業年分での処理について事前に確認しておきましょう(取得時に全額を必要経費にしている少額減価償却資産には、未償却残高は生じません)。
⑤ 廃業した後に生じた費用も、廃業年の経費にできる
事業を廃止した後になって、原状回復費用や廃棄費用などが発生することがあります。
この点について所得税法第63条は、事業を廃止した後にその事業に係る費用または損失で、廃止しなかったとしたならばその年分以後の所得の計算上必要経費に算入されるべき金額が生じた場合には、その廃止した日の属する年分(またはその前年分)の所得の計算上、必要経費に算入すると定めています。
対象となる費用の例
- 廃業後に確定した店舗・事務所の原状回復費、処分・廃棄費用
- 法人成りで引き継いだ従業員に法人が退職金を支払った場合の、個人事業当時の期間に対応する部分
手続き上の注意点
申告後に金額が確定した場合、税金を戻してもらうには「更正の請求」が必要です。しかし、その提出期限は「事実が生じた日の翌日から2か月以内」と短く設定されています。
事後的に手続きを行うのは手間がかかるため、廃業前に業者から見積書や請求書を取り寄せて金額を確定させ、最初の確定申告に含めて処理してしまうのが実務上最も効率的です。
⑥ 個人事業税の「見込控除」
個人事業税は、通常は翌年に納税通知書が届いてから必要経費にします。廃業した年については、これとは別の取扱いが認められています。
所得税基本通達37-7では、事業税を課税される事業を営む者がその事業を廃止した場合、廃止した年分の所得につき課税される事業税の課税見込額を、その年分の当該事業に係る所得の金額の計算上必要経費に算入することができるとされています。
課税見込額は次の算式で計算します。
課税見込額 =(A ± B)× R ÷(1 + R)
A:事業税の課税見込額を控除する前の、その年分の当該事業に係る所得の金額
B:事業税の課税標準の計算上、Aの金額に加算または減算する金額
R:事業税の税率
Bには、個人事業税独自の調整が入ります。たとえば個人事業税には青色申告特別控除の適用がないためその加算が必要となるほか、事業主控除額の減算もここに含まれます。事業専従者控除の取扱いも所得税と異なります。
事業主控除は、年間を通じて事業を行っている場合は290万円ですが、廃業により事業を行った期間が1年に満たない場合は月割になります。神奈川県の案内による月割額は次のとおりです(月数は暦に従って計算し、1月に満たない端数は1月とします)。
| 事業を行った月数 | 事業主控除額 |
|---|---|
| 1か月 | 242,000円 |
| 3か月 | 725,000円 |
| 6か月 | 1,450,000円 |
| 9か月 | 2,175,000円 |
| 12か月 | 2,900,000円 |
税率は業種(法定業種)によって異なり、都道府県が定めています。ご自身の業種が課税対象かどうかも含め、都道府県の公表資料で確認しましょう。
なお、この取扱いによらない場合は、事業税の賦課決定があった時に所得税法第63条および第152条の規定の適用があるとされています。つまり、納税通知書が届いた後に廃業年分について更正の請求を行う方法も残されています。
ただしこの場合の期限も、事実が生じた日の翌日から2か月以内と短く設定されています。見込額の計算に不安がある場合は、どちらの方法を選ぶかを含めて専門家に相談することをおすすめします。
⑦ 赤字で廃業した場合の純損失の繰越し・繰戻し
青色申告をしている方は、事業所得等が赤字となり純損失が生じた場合、以下のいずれかの特例を利用できます。
- 純損失の繰越し
翌年以降3年間にわたり、各年の所得から損失額を控除できる - 純損失の繰戻し
前年も青色申告であれば、前年の所得へ繰り戻して控除し、前年分の所得税の還付を受けられる
廃業後に事業所得が発生しない場合、繰越控除を活かせるかは「給与所得など他に相殺できる所得があるか」がポイントになります。繰越しと繰戻し還付のどちらが有利になるかは、個別の所得状況に応じて変化します。
個人事業税にも独自の取扱いがあります。神奈川県の案内では、青色申告をしている方は、事業の所得が赤字となった場合にその損失を翌年以降3年間繰り越して控除できるとされています。
また、事業に使っていた機械、装置、車両などを譲渡して生じた損失は、青色申告かどうかにかかわらず、その年の事業の所得から控除できるとされています(控除しきれない金額を翌年以降3年間繰り越せるのは青色申告の方に限られます)。
所得税では譲渡所得として扱われるものが、事業税では事業の所得から控除できるという違いがあります。
廃業年の申告でお悩みの方へ
在庫や事業用資産をいくらで評価するか、見込控除を使うかどうか、繰越しと繰戻しのどちらを選ぶか。廃業年の申告は、ご自身の数字を見ないと結論が出ない部分が多くあります。
消費税の申告
消費税の課税事業者だった場合、廃業年分の消費税の申告が必要です。個人事業者の消費税の申告期限は原則として翌年3月31日で、所得税の期限(3月15日)とは異なります。
在庫(棚卸資産)や事業用資産の処分時には、消費税の扱いにも注意が必要です。個人事業主が商品をプライベートで消費・使用した場合、税務上は「事業として対価を得て売却した(みなし譲渡)」と扱われ、消費税の課税対象になります。
特に注意が必要なのが、廃業時に手元に残る事業用資産です。国税庁の解説では、事業廃止に伴い事業用資産でなくなった資産について、事業を廃止した時点で家事のために消費または使用したものとみなすとされています。
そのうえで、その資産の通常売買される価額(時価)に相当する金額を、事業を廃止した日の属する課税期間の課税標準額に含める必要があるとされています。
車両、機械、什器などを売却せずに手元に残す場合、課税事業者であればその時価相当分について消費税の負担が生じます。 廃業前に売却するか手元に残すかで結果が変わるため、資産の整理は早めに検討しておきましょう。
一方、棚卸資産(商品・在庫)を家事消費した場合の計上額の目安は、次のとおりです。
消費税:通常の販売価額のおおむね50%以上(かつ課税仕入れの金額以上)(消費税法基本通達10-1-18)
所得税:通常の販売価額のおおむね70%以上(かつ取得価額以上)(所得税基本通達39-2)
所得税と消費税で水準が異なる点に注意しましょう。
なお、この50%基準は家事消費や贈与の場合の取扱いです。法人成りに伴い新設法人へ在庫を売却する場合は、原則として実際の売却価額が消費税の課税標準となります。
消費税の負担軽減措置は移行期にあります
インボイス制度を機に免税事業者から登録した方が使える2割特例について、国税庁は、適用できる期間は令和5年10月1日から令和8年9月30日までの日の属する各課税期間であるとしています。
免税事業者である個人事業者が令和5年10月1日から登録を受けた場合、令和5年分から令和8年分までの計4回の申告が適用対象範囲となります。暦年で申告する個人事業者にとっては、令和8年分の申告が最後になります。
判定は課税期間の単位で行われます。個人事業者の課税期間は1月1日から12月31日までですので、令和8年分の課税期間は令和8年9月30日を含みます。令和8年10月以降に廃業した場合でも、令和8年分の申告では2割特例を検討できます。
なお、国税庁の説明では、2割特例の適用に当たって事前の届出は必要なく、消費税の申告時に確定申告書にその旨を付記することで適用を受けることができるとされています。
その後については、令和8年度税制改正により、個人事業者に限って令和9年分・令和10年分の申告について3割特例が設けられています。
国税庁の公表資料では、現行の2割特例は令和8年9月30日までの日の属する課税期間で終了するとされ、3割特例の適用を受けようとする場合には確定申告書にその旨を付記する必要があるとされています。
廃業年ごとに、検討する軽減措置は次のように変わります。
| 廃業年(個人事業者) | 検討する軽減措置 |
|---|---|
| 令和8年(2026年)分まで | 2割特例(令和8年分の申告が最後) |
| 令和9年(2027年)・令和10年(2028年)分 | 3割特例(確定申告書への付記が必要) |
| 令和11年(2029年)分以降 | 本則課税または簡易課税(現時点で延長等の措置は設けられていません) |
なお、3割特例は個人事業者を対象とした措置で、法人は対象外です。法人成りを予定している方は、法人側の消費税を別に検討する必要があります。
ただし、いずれも適用できない課税期間があり、本則課税や簡易課税のほうが有利になる場合もあります。要件と有利不利は国税庁インボイス制度特設サイトで最新の内容を確認してください。
法人成りに伴う廃業の場合
法人を設立して事業を引き継ぐ場合は、ここまでに挙げた内容に加えて、以下のような点にも注意しましょう。
- 在庫・固定資産・契約(賃貸借、リース、取引先、従業員)の引継ぎ方法と価額
- 一括償却資産の未償却残高の処理(事業を承継する人がいないため、廃業年分での取扱いが問題になります)
- 従業員に支払う退職金のうち、個人事業当時の事業主が負担すべき部分の取扱い
- 個人から法人への資産の譲渡に係る消費税(課税事業者の場合、課税売上げとなります)
- 法人側の設立届出、青色申告の承認申請、給与支払事務所等の開設届出、消費税の選択届出
法人側にも、短い期限の届出があります
個人側の廃業手続きと並行して、法人側の届出も進める必要があります。国税庁の案内による主な期限は次のとおりです。
| 書類 | 提出期限 |
|---|---|
| 法人設立届出書 | 法人設立の日以後2か月以内 |
| 青色申告の承認申請書 | 法人設立の日以後3か月を経過した日、または最初の事業年度の終了日のいずれか早い日の前日まで |
| 給与支払事務所等の開設届出書 | 給与支払事務所等を設けてから1か月以内 |
| 消費税課税事業者選択届出書 | 法人設立の日の属する課税期間の末日まで |
特に青色申告の承認申請は、設立日から3か月以内に最初の事業年度が終わる場合、その終了日の前日が期限になります。
なお国税庁では、これらの届出をマイナポータルの「法人設立ワンストップサービス」からオンラインで一括提出する方法を推奨しています。
法人成りについては下記の記事で詳しく解説しています。

消費税は、2年間の縛りに注意しましょう
設立時から消費税の課税事業者になる選択や、インボイス発行事業者の登録を検討する方もいらっしゃるかと思います。
ただし国税庁の案内では、消費税課税事業者選択届出書や適格請求書発行事業者の登録申請書を提出した場合、開業後2年間は課税事業者として消費税の申告が必要となるとされています。
また、前述のとおり3割特例は法人には適用されません。
個人事業主時代に2割特例を使っていた方が法人成りすると、消費税の負担が変わる可能性があります。 登録するかどうかは、取引先がインボイスを必要とするかどうかと併せて判断しましょう。
インボイス制度については下記の記事で詳しく解説しています。

スケジュールの流れ
| タイミング | やること |
|---|---|
| 廃業日 | 廃業日の確定、帳簿・在庫・資産の棚卸し、原状回復費用等の見積もり取得 |
| 1か月以内 | 給与支払事務所等の廃止届出書、社会保険・雇用保険関係、都道府県への事業税の申告(神奈川県の場合。自治体により異なります) |
| 速やかに | 消費税の事業廃止届出書 |
| 7月15日/11月15日 | 予定納税の減額申請(該当する場合) |
| 翌年3月15日 | 所得税の確定申告、廃業届、青色申告の取りやめ届出書 |
| 翌年3月31日 | 消費税の確定申告(課税事業者の場合) |
個人事業税の納期は、神奈川県の場合、原則として8月と11月の2回です(税額が1万円以下の場合は8月に全額)。
ただし事業を廃止した場合などは、8月・11月とは別に、納税通知書に記載された納期限までに納めることがあるとされています。廃業年は納税通知のタイミングが通常と異なる場合があるため、資金の準備に注意しましょう。
よくあるご質問
- 廃業届を出さないとどうなりますか。
-
罰則が定められているわけではありませんが、確定申告の案内が届き続けるなど実務上の不都合が生じる場合があります。提出しておくことをおすすめします。
- 廃業後に売上が入金されました。申告は必要ですか。
-
入金時期ではなく発生時期で判断するのが原則です。廃業年の売上として計上されているかを確認しましょう。
- 休業と廃業は違いますか。
-
一時的に事業を止める休業の場合、廃業届の提出は行いません。再開の見込みがあるかどうかで判断が変わります。
- 廃業したら、帳簿や領収書は捨ててよいのでしょうか。
-
廃業しても保存義務は消えません。個人で事業や不動産貸付け等を行うすべての方に記帳と帳簿書類の保存義務があり、保存期間は書類の種類によって5年間または7年間です。
青色申告の場合、帳簿・決算関係書類・現金預金取引等関係書類は原則7年間、その他の取引関係書類は5年間とされています(一定の場合は5年間となるものがあります)。起算日は確定申告書の提出期限の翌日です。
また、メールやWebで受け取った請求書・領収書などの電子取引データは、電子帳簿保存法により電子データのまま保存する必要があります。廃業を機に会計ソフトを解約する場合は、データの出力・保管方法を先に決めておくと安全です。
- 廃業後、再び開業できますか。
-
可能です。再開時には、改めて「個人事業の開業・廃業等届出書」を提出します。
青色申告を再開するために「所得税の青色申告承認申請書」の提出が改めて必要です。申請期限は、事業を開始した日が1月15日以前ならその年の3月15日まで、1月16日以後なら開始日から2か月以内です。
なお、取りやめ届出書を提出した日から1年以内に承認申請をした場合は、承認されないことがあります。再開の可能性がある方は、取りやめ届を出すかどうかも含めて早めにご検討ください。
- 失業手当(基本手当)は受けられますか。
-
雇用保険の被保険者であった方が対象の制度であり、個人事業主としての廃業がそのまま対象になるものではありません。開業・廃業のタイミングと受給の関係は個別の事情によりますので、ハローワークにご確認ください。
失業手当については下記の記事で詳しく解説しています。

まとめ
個人事業の廃業は、届出を1枚出して終わる手続きではありません。提出先は税務署だけでなく都道府県や市区町村など複数にわたり、それぞれ提出期限も定められています。
さらに重要なのが、その後に控える確定申告です。売掛金や在庫、事業用資産の処理方法によって納める税額は大きく変わることがあります。また、廃業年に限って適用できる特別なルール(廃業後に生じた費用の必要経費化や、事業税の見込控除など)も用意されています。
ただし、これらの特例は、申告者自身が選択して手続きを行わなければ適用されません。知らないまま申告を終えると、選択の機会を逃してしまうおそれがあります。判断に迷う点は、申告前に確認しておくことが大切です。
また、申請期限を過ぎると利用できなくなる手続きがある点にも注意しましょう。たとえば、所得税の予定納税額の減額申請は7月と11月の指定期間内しか行えず、更正の請求も事実が生じた日の翌日から2か月以内と定められています。
事業をたたむ時期は、税務以外の手続きや作業も集中しやすいため、あらかじめ全体のスケジュールを把握し、余裕をもって準備を進めましょう。
本記事は2026年9月時点の法令および国税庁・中小機構・神奈川県の公表内容に基づいています。制度は改正されることがありますので、実際の手続きの際は最新の一次情報をご確認ください。
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