失業手当をもらいながら開業届を出すとどうなる?不正受給を防ぐ正しい流れ

失業手当中に開業届 出したらどうなる? 手当停止?不正受給?受給中の開業 正しい手順

「退職したので、まずは開業届を出してフリーランスとして動き出そう」

失業手当(雇用保険の基本手当)を受給中に開業届の提出を検討している方もいらっしゃるのではないでしょうか。

しかし、受給期間中に「とりあえず開業届を出しておこう」と手続きを進めてしまうことには注意が必要です。

失業手当は「働き先が決まっておらず、積極的に求職活動をしている人」を支援する制度のため、開業(自営業の開始)はハローワークの実務上、就職と同じ扱いになります。

知らずに開業届を提出し、申告せずに手当を受け取り続けると、給付が止まるだけでなく「不正受給」とみなされペナルティを科されるおそれがあります。しかし、事前に正しい流れを押さえ、要件を満たすことで「再就職手当」という形で資金面でのサポートを受けられる場合もあります。

本記事では、失業手当を受給中に開業届を出すとどうなるのか、その仕組みと不正受給を防ぐための正しい進め方について詳しく解説します。

雇用保険の受給要件・給付制限・不正受給の認定は、個々の状況に関する事実認定に基づきハローワークが判断するものです。本稿はあくまで一般的な制度の考え方を整理したものであり、ご自身のケースでの可否については、必ず管轄のハローワークにご確認ください。

目次

失業手当(基本手当)の受給要件

失業手当(雇用保険の基本手当)を受け取るには、「積極的に求職活動をしていること」が前提であり、単に離職しているだけでは受給できません。

基本手当の受給要件は、就職しようとする積極的な意思があり、いつでも就職できる能力があるにもかかわらず、本人やハローワークの努力によっても、職業に就くことができない「失業の状態」にあること。
(出典:ハローワークインターネットサービス、2026年9月時点)

病気やけが、妊娠・出産、家事に専念する期間など、すぐに就職できない状態にある場合は、この「失業の状態」に該当せず、給付の対象外となります。

また、原則として4週間ごとに設定される「失業認定日」に、失業認定申告書へ求職活動の状況などを記入して提出する必要があり、認定対象期間ごとに一定回数以上の求職活動実績が求められます。

失業手当は、「働く意思があるのに、まだ働き先が見つかっていない人」を支えるための制度であり、「自分の事業を始めた人」を対象にした制度ではないという点に注意しましょう。

開業=「就職」とみなされる理由

ハローワークの実務上、自営業を始める(開業する)ということは、「他社への就職を目指している状態」ではなくなります。そのため、ハローワークの判断基準として開業は「就職(自営を開始した)」とみなされ、失業状態ではなくなります。

これは、「求職活動をしている失業者」ではなく、「自ら仕事を作り出した状態」になったと評価されるためです。

ハローワークでは「就職や就労(パート、アルバイト、日雇、試用期間なども含みます。)をし、また、自営を開始した場合に、そのことを失業認定申告書で申告しない」ことが、不正受給の一例として挙げられています。どのような働き方であれ、就職・就労・自営の開始をした場合には、速やかに申告する義務があることを理解しておきましょう。(出典:ハローワークインターネットサービス「雇用保険の具体的な手続き」、2026年9月時点)

どの時点をもって「自営を開始した」と判断するかは、開業届の提出日、事業のための準備行為の内容、実際に売上や労務の提供が発生しているかどうかなど、個々の事実関係を踏まえてハローワークが判断するものであり、一律に「開業届を出した日=就職日」と機械的に決まるわけではないため注意しましょう。

失業手当受給中に開業届を出すとどうなるか

失業手当の受給資格を持っている期間中に開業届を出すと、どのような影響があるのでしょうか。

原則、受給資格がなくなります(不正受給リスク)

前章のとおり、自営の開始は「就職」と同様に扱われるため、開業届を提出し、実質的に事業を開始したと認められる状態になると、原則としてその時点から失業の状態ではなくなり、以後の基本手当は受給できなくなります。

問題は、この事実を申告せずに、それまでどおり失業認定を受けて手当を受け取り続けてしまった場合です。この場合、実態と異なる申告に基づいて手当を受け取っていたことになり、「不正受給」として扱われるリスクが生じる場合があります。

「開業届を出しただけで、まだ本格的に稼働していないから大丈夫だろう」といった自己判断で進めることは避け、次に説明する事前の申告・相談を徹底することが重要です。

ハローワークへの申告義務

前章のとおり、就職・就労・自営の開始は、ハローワークインターネットサービスが不正受給の典型例として挙げている事項です。つまり、これらの事実が生じた場合には、失業認定申告書でその旨を申告する義務がある、と理解しておく必要があるでしょう。

これは「バレたら困るから隠す」という発想ではなく、自己申告が前提として組み込まれている仕組みです。

開業を具体的に検討し始めた段階(開業届を出す前の準備段階)から、一度ハローワークの窓口に相談しておくことをおすすめします。

「就職(自営開始)」とみなされるかの判断は個別の事実認定によるため、自分のケースがどう扱われるのかを、進める前に確認しておくことが、後のトラブルを避ける確実な方法となるでしょう。

開業届を出した(または事業を開始した)場合は、次の認定日に提出する「失業認定申告書」にその旨を正しく記載し、ハローワークへ届ける義務があります。開業届の控えなどの確認資料を提示することで、開業日の前日までの手当が清算支給されます。

申告せずに受給し続けた場合のペナルティ

「開業届を出したことを黙っていればバレないのでは?」と考えるのは非常に危険です。自営を開始した事実を申告せずに基本手当を受給し続けた場合、不正受給として扱われ、重いペナルティの対象となる可能性があります。

不正受給が発覚した場合、それ以降の支給停止に加えて、既に支給を受けた金額の返還命令、さらに最大で受給額の2倍に相当する額の納付命令が科されることがある
(出典:雇用保険法第10条の4、ハローワークインターネットサービス「不正受給をした場合には」、2026年9月時点)

合計すると不正受給額の3倍相当の金銭的負担を求められる可能性があります。加えて、悪質なケースでは詐欺罪として刑事告発される可能性がある旨も同資料に記載されています。

「少しくらいなら大丈夫」という判断は避け、就職・自営開始の事実は速やかに申告することが、結果的に最も負担の少ない選択になります。

開業を考えている人が取るべき正しい手順

① ハローワークへの事前相談

「開業を検討している」「いつ開業届を出すべきか悩んでいる」という段階で、必ず管轄のハローワークに相談しましょう。

どの段階から「自営開始(就職)」とみなされるのか、開業準備行為はどこまで許容されるのか、開業届をいつ提出すべきかといった点は、事業の内容や進捗状況によって個別に判断が異なります。自己判断で進めるのではなく、まずハローワークの窓口で自分のケースについて確認することが、不正受給のリスクを避ける方法となるでしょう。

② 開業日をいつにするかの考え方

「開業届の提出日」と「実際に事業を開始した日(開業日)」は、必ずしも同じ日である必要はありません。開業届は税務上の届出であり、「いつまでに準備行為を終え、いつから本格的に事業を稼働させるか」は、事業計画に応じて検討すべき事項です。

一方で、ハローワークの実務上は、開業届の提出そのものが「事業を開始した」ことを示す外形的な事実の一つとして扱われる可能性があります。そのため、「開業に向けた情報収集や準備を進めている段階」なのか、「実際に事業として稼働を始めた段階」なのかを自分の中で整理したうえで、開業届をいつ提出するかについても、事前にハローワークへ相談しながら判断することが望ましいでしょう。

判断基準はケースごとの事実認定によるため、「この日までなら大丈夫」といった一律の目安を示すことはできない点にご留意ください。

③「受給期間中の起業」を支援する制度の活用について

失業手当の受給資格者が起業する際に活用できる制度として、かつて「受給資格者創業支援助成金」という制度が存在しましたが、この助成金は既に廃止されており、現時点では実施されていません。制度の活用を検討する場合は、まずハローワークインターネットサービスの助成金一覧や、管轄のハローワーク窓口で、現在実施されている制度の有無を最新の情報でご確認ください。

雇用保険の給付とは別の枠組みにはなりますが、法人設立時の登録免許税が軽減される「特定創業支援等事業」や、日本政策金融公庫の創業融資、自治体独自の創業支援策など、開業者向けの支援制度そのものは他にも存在します。

失業手当の受給可否はハローワークの管轄ですが、資金計画や税務面での制度活用については、税理士へ相談しながら並行して検討することをおすすめします。

制度の募集状況や支給要件は年度や地域によって改定されるため、厚生労働省の一次情報や自治体の最新情報を確認しましょう。

特定創業支援等事業や創業融資については下記の記事で詳しく解説しています。

再就職手当を活用する選択肢

「手当が途切れるなら、受給完了まで開業を待つべき?」と考える方もいらっしゃるのではないでしょうか。

失業手当の受給中に就職や事業を開始した場合に活用できる可能性がある給付金として「再就職手当」があります。名称に「就職」とありますが、一定の要件を満たせば、開業(自営を開始した場合)も支給の対象になります。

再就職手当がもらえる条件

再就職手当の支給要件として、主に次のような項目が挙げられています。(出典:ハローワークインターネットサービス「再就職手当のご案内」、2026年9月時点)

  • 就職日(自営開始日)の前日までの失業認定を受けており、基本手当の支給残日数が所定給付日数の3分の1以上あること
  • 離職した前の事業主に再び就職したものでないこと、また、離職した前の事業主と資本・資金・人事・取引面で密接な関わり合いがない事業主に就職したこと
  • 1年を超えて事業を継続することが確実であると認められること
  • 過去3年以内に再就職手当または常用就職支度手当の支給を受けていないこと
  • 受給資格決定(求職申込み)前から採用が内定していた事業主に雇用されたものでないこと
  • 待期期間(7日間)の満了後に就職・自営を開始していること

いずれも一般的な要件の骨子であり、実際の適用可否は個々の状況によって判断されます。詳細な要件は、必ずハローワークインターネットサービスの最新の案内、または管轄のハローワーク窓口でご確認ください。

開業の場合に受け取れるケース

個人事業主として開業する場合に再就職手当を受け取るには、主に以下の条件を満たす必要があります。
(出典:ハローワークインターネットサービス「再就職手当のご案内」、2026年9月時点)

  • 受給資格手続き(7日間の待期期間)満了後の開業であること(待期期間中の開業は対象外)
  • 支給残日数が所定給付日数の3分の1以上残っていること
  • 1年を超えて事業を継続することが確実であると認められること(実務上、事務所の契約書や事業計画書などの提示を求められる場合がある)
  • 給付制限期間がある場合、待期期間(7日間)満了後1ヶ月間は、原則としてハローワークまたは許可された職業紹介事業者の紹介による「就職」のみが再就職手当の対象となる(自営開始はこの「紹介」という形に当てはまらないため、実務上はこの1か月間に開業すると再就職手当の対象外となり、待期満了後1か月を経過してから事業を開始(又は準備開始)する必要がある)

給付制限がある方は、待期期間(7日間)が明けてすぐ、あるいは1ヶ月以内に事業を開始すると、再就職手当の対象外となります。開業のタイミングを検討する際は、この「待期満了後1ヶ月」という時期を踏まえて計画する必要があるでしょう。

給付制限がない方(会社都合退職などで給付制限が設けられない場合)は、この1ヶ月要件自体が適用されません。

申請にあたっては「再就職手当支給申請書」を、就職(自営開始)した日の翌日から1ヶ月以内に提出する必要があります。提出期限が短いため、開業日が決まった段階で、早めにハローワークへ確認しておくことをおすすめします。

給付制限期間の取り扱いや条件詳細は、必ず最新の厚生労働省パンフレット等をご確認ください。

再就職手当の支給額のイメージ

再就職手当の支給額は、基本手当の支給残日数の割合に応じて、次のような支給率で計算される仕組みになっています。(出典:ハローワークインターネットサービス「再就職手当のご案内」、2026年9月時点)

・支給残日数が所定給付日数の3分の2以上残っている場合
 →基本手当日額 × 支給残日数 × 70%

・支給残日数が所定給付日数の3分の1以上(3分の2未満)残っている場合
 →基本手当日額 × 支給残日数 × 60%

計算に用いる基本手当日額には上限が設けられており、令和8年8月1日から令和9年7月31日までの適用額は下記のとおりです。

離職時の年齢区分基本手当日額の上限額
29歳以下7,450円
30歳〜44歳8,270円
45歳〜59歳9,110円
60歳〜64歳7,830円

この上限額は雇用保険の他の給付額と同様、毎年8月1日に自動改定される仕組みになっているため、実際に試算する際は、その時点でハローワークインターネットサービスに掲載されている最新の額をご確認ください。

ただし、ここでの上限額は、失業手当(基本手当)本体の計算に用いる上限額です。再就職手当の計算に使う基本手当日額には、これとは別に、より低い専用の上限額が設けられています(令和8年8月1日から令和9年7月31日までの適用)

離職時の年齢区分再就職手当の試算時の基本手当日額の上限額
60歳未満6,745円
60歳以上65歳未満5,454円

ご自身の基本手当日額がこの専用上限を超えている場合は、再就職手当の試算時にはこの上限額に置き換えて計算される点にご注意ください。

45〜59歳で離職時の基本手当日額が上限の9,110円、支給残日数が所定給付日数の3分の2以上(仮に60日)残っている状態で自営を開始し、再就職手当の要件を満たした場合、失業手当本体の日額(9,110円)をそのまま当てはめると

支給額の目安は「9,110円 × 60日 × 70% = 382,620円」という計算になりそうですが、

再就職手当の計算には専用の上限(60歳未満6,745円)が適用されるため、

実際の支給額の目安は「6,745円×60日×70%=283,290円」となります。

あくまで一定の条件を仮定した試算例であり、実際の金額はご自身の基本手当日額・支給残日数・要件充足状況によって異なります。

開業届を出すタイミングの考え方

開業届を出すタイミングを考えるうえでのポイントをまとめました。

  • 開業届を出す前に、ハローワークへ事前相談し、自分のケースではどの時点から「自営開始(就職)」とみなされるかを確認する
  • 「開業準備」の段階と「事業として稼働を始める」段階を自分の中で整理し、準備段階での情報収集や税理士への相談自体は、直ちに「就職」とみなされるものではないと考えられる一方、この線引きは個別の事実認定によることを踏まえておく
  • 再就職手当の活用を検討する場合は、「待期期間満了後1ヶ月」という時期も踏まえて開業日を計画する
  • 自営を開始したと判断できる状態になったら、速やかにハローワークへ申告する

「開業準備を進めながら、いつ開業届を出すか」は、失業給付の受給状況や再就職手当の活用有無によって最適なタイミングが変わってきます。

税務上のスケジュール(青色申告承認申請書の提出期限など)とあわせて、早めに税理士にもご相談いただくことをおすすめします。

開業届の書き方については下記の記事で詳しく解説しています。

よくある質問(Q&A)

開業準備中にアルバイトをしても大丈夫ですか?

アルバイト・パート等の就労も、失業認定申告書での申告義務の対象となります。就労日数・時間・収入額によって、その日の基本手当が減額または不支給になる場合があります。開業準備中のアルバイトについても、事前にハローワークへ確認することをおすすめします。(出典:ハローワークインターネットサービス、2026年9月時点)

再就職手当を受け取ったあとに、事業をやめて会社に再就職した場合はどうなりますか?

再就職手当は、1年を超えて事業を継続することが確実であることなどを要件として支給される給付です。支給後すぐに事業がうまくいかず廃業し、再び企業に就職した場合でも、再就職手当の返還を求められることは原則ありません(受給時の条件を偽っていない場合に限ります)。

しかし、個別の事実関係に基づきハローワークが判断する事項となるため、具体的なケースは管轄のハローワークへご確認ください。

開業届を出す前に、税理士や専門家に相談すること自体は「就職」とみなされますか?

「自営の開始」とみなされる時期の線引きは労働局によって幅がありますが、判断材料としては、従業員の雇入れ、許認可の取得、事務所の賃貸借契約、備品購入や賃料の支払い、売上の発生などが挙げられます。

情報収集や専門家への相談だけでは、直ちに「就職」とはみなされにくいと一般的には考えられますが、線引きは個々の事実関係によるため、判断に迷う場合は開業届を出す前に管轄のハローワークへ相談しましょう。

再就職手当を受け取った後、さらに「就業促進定着手当」も受け取れますか?

就業促進定着手当は、再就職手当の支給を受けた方が、再就職先の事業主のもとで引き続き雇用保険の被保険者として6ヶ月以上雇用され、かつ再就職後の賃金が離職前より低下している場合に支給される制度です。

自営業(個人事業主)として開業した場合は、雇用保険の被保険者という立場に該当しないため、就業促進定着手当の支給対象にはなりません。(出典:ハローワークインターネットサービス「就職促進給付」、2026年9月時点)

まとめ

失業手当を受給しながら開業を目指すことは珍しいことではありませんが、開業(自営業の開始)は原則として「就職」とみなされます。万が一、申告を怠ると「不正受給」として重いペナルティを受けるリスクがあるため、制度の仕組みをしっかり理解した上で正しく手続きを進めることが重要です。

雇用保険の受給可否や開業の判定基準は、ハローワークの個別判断となります。自己判断で動かず、まずは管轄のハローワークへ具体的なスケジュールをご相談ください。

その上で、開業決定後の「青色申告の手続き」「節税対策」「資金計画」といった税務・経営面の準備については、ぜひ税務のプロである税理士へご相談ください。制度を正しく理解し、税理士とともに万全の体制で事業をスタートさせましょう。

弊事務所においても、個人事業主・フリーランスや法人化などの税務申告・開業全般サポートに力を入れておりますので、疑問点や不安がある方は初回無料の相談窓口まで、お気軽にお問い合わせください。

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