優良な電子帳簿とは?要件と青色申告75万円控除(令和9年分〜)の導入判断

優良な電子帳簿 導入判断ガイド 青色申告75万円控除(令和9年分〜)の要件を税理士が解説

電子帳簿保存法における「優良な電子帳簿」とは、国税庁が定める一定の要件をクリアした帳簿のことです。対応は義務ではなく任意の選択ですが、要件を満たして届出書を提出すると、個人事業主は青色申告特別控除の上乗せ、個人・法人ともに過少申告加算税の軽減を受けられます。

「節税になるなら導入すべき?」

「自分も早く対応しないと損をしてしまうのでは…?」と迷っている方も多いのではないでしょうか。

令和8年分(2026年1〜12月の所得、2027年2月~3月の申告)までは、複式簿記などの要件を満たしたうえで期限内にe-Taxで申告すれば、65万円控除を受けられます。そのため、65万円控除だけが目的なら、優良な電子帳簿は必須ではありません。

ただし、令和9年分(2027年1〜12月の所得、2028年2月~3月の3月の申告)からは、e-Taxでの申告に加えて優良な電子帳簿などで保存すると、控除額が最大75万円になります。また、75万円控除や過少申告加算税の軽減を受けるには、その年の1月1日(法人は事業年度の初日)から要件を満たしている必要があります。

そのため、今後の見通しを踏まえて、「いつから対応すべきか」をあらかじめ見極めておくことが大切です。

本記事では、2026年10月時点の法令・国税庁資料に基づき、優良な電子帳簿の要件と2つのメリットを整理したうえで、「自分にとって今本当に必要か」を判断するポイントを解説します。

目次

「優良な電子帳簿」とは(普通の電子帳簿との違い)

会計ソフトで作った帳簿は、紙に印刷しなくても、データのまま保存できます。これを「電子帳簿等保存」といい、電子帳簿保存法第4条第1項で定められています。利用するかどうかは、事業者が自由に選べます。

ただし、帳簿を記録の最初から最後までパソコン等で作っていることが条件で、途中で手書きが混じる帳簿は対象になりません。

この「最初」について、国税庁の電子帳簿保存法取扱通達では、原則としてその年の1月1日(法人は事業年度の初日)としています。

そのため、年の途中から切り替えたい場合は、翌年(法人は翌事業年度)の初日から始めるのが原則です。ただし、年の途中で新しく事業を始めた方は、例外として開業日が「最初」になります。

国税庁のリーフレット(令和8年6月)では、この電子帳簿等保存を、満たす要件によって次の2段階に分けて説明しています。

比較項目その他の電子帳簿(最低限の要件)優良な電子帳簿
主な要件・システム説明書やディスプレイ等の備付け
・税務職員のデータダウンロード要求への対応  
システム説明書・ディスプレイ等の備付けに加え:
・訂正・削除・追加の履歴保持
・帳簿間の相互関連性の確保
・検索機能(日付・金額・取引先など)
税制上の優遇 なし(紙に印刷せず電子保存ができるのみ)・青色申告特別控除の上乗せ(個人事業主)
・過少申告加算税の軽減
※いずれも届出が必要

イメージとしては、「紙を使わずにパソコン等でデータを保存できる帳簿」と、「そのうえで、あとから直した記録が残り、必要な取引をすぐ探せる帳簿」の違いでしょう。

優良な電子帳簿は記録の信頼性が高い分、税制上の優遇が用意されています。詳しい要件は、後ほど「優良な電子帳簿の要件」で解説します。

よく混同されるのが「電子取引データ保存」です。メールで受け取った請求書や領収書のデータなど、取引の記録をデータで受け取ったり送ったりした場合は、そのデータを保存することが法人・個人事業主ともに義務づけられています。こちらは選べる制度ではなく、必ず対応が必要なもので、今回の「優良な電子帳簿」とは別の制度となります。

電子取引データ保存については下記の記事で詳しく解説しています。

満たした場合に受けられる2つのメリット

要件を満たして「優良な電子帳簿」の運用を行うと、税制上の優遇措置を受けることができます。

1. 青色申告特別控除の上乗せ(個人事業主)

青色申告特別控除は、所得から一定額を差し引ける制度です。令和8年度税制改正(所得税法等の一部を改正する法律。令和8年3月成立)により、令和9年分以後の所得税について、控除の区分が次のように見直されました。改正の方針は、財務省の「令和8年度税制改正の大綱」で示されていたものです。

記帳・申告の方法令和8年分まで令和9年分以後
複式簿記+期限内にe-Tax+優良な電子帳簿65万円75万円
複式簿記+期限内にe-Tax65万円65万円
複式簿記+書面で提出+優良な電子帳簿(届出あり)65万円10万円
複式簿記+書面で提出55万円10万円

表の55万円・65万円・75万円の控除は、次の条件をすべて満たす方が対象です。

  • 事業所得、または事業的規模の不動産所得がある
  • 貸借対照表と損益計算書を確定申告書に添付している
  • 期限内に申告している

控除額はこれらの所得の金額が上限です。たとえば事業所得が50万円なら、控除も50万円までになります。

また、現金主義による所得計算の特例を受けている方は、55万円・65万円・75万円の控除は受けられません(10万円の控除は受けられます。国税庁タックスアンサーNo.2072、国税庁のリーフレット(令和8年8月))。

なお、簡易簿記などで記帳している方も、令和9年分からは、前々年の事業所得(または不動産所得)の総収入金額が1,000万円を超えると、10万円控除を受けられなくなります(控除は0円)。

ただし、国税庁のリーフレットによると、不動産所得は事業的規模の場合に限られ、業務的規模の方は引き続き最大10万円の控除を受けられます。

控除額の差=税金の差ではありません

青色申告特別控除は、税金そのものではなく「所得」から差し引く金額です。そのため、65万円と75万円の差である10万円が、そのまま税金の差になるわけではありません。たとえば所得税の税率が10%の方なら、10万円×10%=約1万円が所得税の差です(復興特別所得税を除く概算)。

青色申告特別控除は住民税の所得の計算にも反映されるため(地方税法第32条第2項・第313条第2項)、実際の負担の差はこれより大きくなります。住民税は前年の所得に課税されるので、令和9年分の控除は令和10年度の住民税に反映されます。

2. 過少申告加算税の軽減

国税庁のリーフレット(令和8年6月)によると、税務調査などで申告漏れを修正したとき、優良な電子帳簿に記録された事項に関する部分の過少申告加算税が5%軽減されます(原則10%→5%)。対象は所得税・法人税・消費税です。

例:追加で納める税額が40万円で、原則10%が課される場合、加算税4万円が2万円になります。本来の税額(本税)や延滞税は減りません。

なお、所得税の場合、軽減の対象になるのは、帳簿に基づいて計算する事業所得・不動産所得・山林所得の申告漏れです。国税庁の電子帳簿保存法取扱通達では、一時所得などの申告漏れや、保険料控除・扶養控除などの適用誤りは対象外とされています。

どちらも届出書の提出が必要です

この2つのメリットは、優良な電子帳簿で保存しているだけでは受けられません。あわせて、税務署に所定の届出書を出しておく必要があります。いつまでに出せばよいかは、後述の「届出書の期限と『1月1日』の壁」で詳しく説明します。

【重要】令和8年分と令和9年分以後で、判断が変わる

令和8年分までは、65万円の控除にはe-Taxか優良な電子帳簿のどちらかが必要

国税庁のタックスアンサー(No.2072)によると、令和8年分までの65万円控除は、複式簿記などの基本の要件を満たしたうえで、次のどちらかができていれば受けられます。

  • 期限内にe-Taxで申告する
  • 優良な電子帳簿で保存し、届出書を出す

e-Taxで申告するなら、65万円控除のために優良な電子帳簿を準備したり、届出書を出したりする必要はありません。

令和8年分で優良な電子帳簿のメリットを受けられるのは、主に次のような方です。

  • 過少申告加算税の軽減も受けておきたい方
  • e-Taxを使わず、書面で申告したい方

ただし、そのためには、原則として2026年1月1日から要件どおりにしている必要があります(年の途中で開業した方は開業日から)。これから対応を始める方は、令和9年1月1日からの開始を目指しましょう。

令和9年分以後、65万円以上の控除にはe-Taxが必須、75万円には優良な電子帳簿なども

令和9年分以後は、期限内のe-Tax送信が65万円・75万円のどちらを受けるにも必要になります。書面で提出した場合は、優良な電子帳簿で保存していても65万円・75万円の対象にならず、控除は10万円になります。

そのうえで、e-Taxで申告するだけだと控除額は65万円にとどまりますが、仕訳帳と総勘定元帳を「優良な電子帳簿」にすることで最大75万円の控除を受けられます。

すでに優良な電子帳簿で65万円控除を受けている方は、改めて届出書を出さなくても、令和9年分から75万円控除の適用を受けられると国税庁は案内しています。ただし、令和9年分以後は75万円控除にもe-Taxでの申告が必要です。いま書面で申告している方は、e-Taxに切り替える必要があります。

一方、e-Taxで65万円控除を受けている方が75万円を目指す場合は、仕訳帳と総勘定元帳を課税期間の最初(1月1日)から優良な電子帳簿で保存し、確定申告期限までに届出書を提出します。

75万円控除のもうひとつの方法「デジタルシームレス保存」

75万円控除には、優良な電子帳簿のほかに「デジタルシームレス保存」という方法もあります。国税庁のリーフレット(令和8年6月)では、次のように説明されています。

  • 対象になるデータ
    デジタル庁が管理する仕様で送受信されたデジタルインボイス(「Invoice JP PINT」または「JP Self-Billing」)、または預貯金口座の決済データ
  • 保存の方法
    国税庁長官が定める基準に合ったシステムを使い、データを帳簿に自動で連携して保存する
  • 主な要件
    訂正・削除の履歴が残る(または訂正・削除できない)システムで送受信・保存すること、データの金額を書き換えて帳簿に記録できないこと、データと帳簿の対応関係を確認できること

請求書や入出金のデータを手入力せずに帳簿へ取り込む仕組みで、電子取引データ保存の要件を満たしていることが条件となります。この方法を選ぶ場合も届出書が必要です。優良な電子帳簿とどちらが使いやすいかは、お使いのソフトの対応状況によって変わるでしょう。

全員が75万円を目指す必要はありません

所得が少なく控除の上限に届かない方や、今のソフトが非対応で乗り換えや再設定の負担が大きい方は、上乗せ分の効果と手間を比べて判断しましょう。全員が一律に取り組むべきものではありません。

優良な電子帳簿の要件

国税庁が示す要件は次の5つです。帳簿は最初の記録段階から一貫してパソコン等で作成していることが条件で、途中で手書きが混じる帳簿は対象外です。

  1. 訂正・削除・追加の事実と内容を確認できるシステムを使うこと(履歴が残ること)
  2. 帳簿間で記録事項の相互関連性を確認できること(仕訳帳と元帳・補助簿がつながっていること)
  3. 検索機能を確保すること(①取引年月日・取引金額・取引先で検索できる、②日付や金額の範囲を指定して検索できる、③2つ以上の項目を組み合わせて検索できる)
  4. システムの概要書・操作説明書などを備え付けること
  5. ディスプレイ・プリンタなど、画面や書面で確認できる装置を備え付けること

※ 税務職員からのダウンロードの求めに応じられるようにしている場合は、3の②③は不要です。ダウンロード対応は、検索機能の一部を代替する選択肢という位置づけです。

目的によって、対象になる帳簿が違います

目的優良な電子帳簿にする必要がある帳簿
青色申告特別控除(65万円・75万円)       仕訳帳・総勘定元帳
過少申告加算税の軽減仕訳帳・総勘定元帳に加え、売上帳・仕入帳・経費帳・売掛帳・買掛帳・固定資産台帳など、国税庁が具体例として示す帳簿のうち、自身が作成しているもの

控除だけが目的なら2つの帳簿で足りますが、加算税の軽減まで受けるには、対象となる補助簿までそろえる必要があります。

加算税の軽減を受けるには、対象になる帳簿の種類を届出書に書いて提出します。国税庁の手続案内では、所得税・法人税・消費税などの税目ごとに、対象になる帳簿のすべてを要件どおりに保存することが求められています。一部の帳簿だけを優良な電子帳簿にしても、軽減は受けられません。

使っている会計ソフトが対応しているか確認する方法

目印になるのが、公益社団法人日本文書情報マネジメント協会(JIIMA)の「電子帳簿ソフト」認証です。認証ソフトは機能要件を満たしており、一覧はJIIMAのホームページで確認できます。

なお、認証ソフトを使用している場合であっても、お使いの帳簿が対象に含まれているか、優良な電子帳簿として認められるための初期設定が必要かどうかを確認しましょう。システムの説明書やディスプレイ・プリンタ等の備え付けも要件として求められます。

Excelで帳簿を付けている場合は、上書きすると履歴が残らないため、要件1を満たすのは現実的に難しいと考えましょう。

届出書の期限と「1月1日」の壁

届出の期限は、適用を受ける年分の法定申告期限まで

国税庁の手続案内では、届出書は適用を受けたい年分(法人は事業年度)の法定申告期限までに提出することとされています。

個人事業主には、控除と加算税の軽減をまとめて届け出る様式があります。また、75万円控除を優良な電子帳簿で受けるか、デジタルシームレス保存で受けるかによって、提出する届出書は異なります。

国税庁の例では、個人事業主が令和8年分から加算税の軽減を受けたい場合、令和9年3月15日までの提出です。75万円控除の適用を受ける場合は、青色申告の承認を受けていることも条件となります。

加算税の軽減は「その年の初日から」が条件

注意したいのは保存を始める時期です。加算税の軽減は、課税期間の初日(個人は1月1日、法人は事業年度の初日)から優良な電子帳簿として備付け・保存していることが条件です。年の途中から整えても、その年分は対象になりません。税務調査の連絡を受けてから準備しても、さかのぼって適用することはできません。

75万円控除も「その年分の仕訳帳・総勘定元帳」が対象です。国税庁のリーフレット(令和8年8月)でも、仕訳帳と総勘定元帳を課税期間の最初(1月1日)から優良な電子帳簿で保存することが要件とされています。

新たに事業を始める場合

年の途中で新たに事業を始めた場合は、開業日が帳簿の「始まり」になります。国税庁の電子帳簿保存法取扱通達の解説でも、加算税の軽減は、事業を始めた年については開業日から要件を満たしていれば対象になるとされています。

開業と同時に対応ソフトで記帳を始めておけば、1年目から備えることができ、後から切り替える手間もかかりません。

節税と脱税・租税回避の線引き

青色申告特別控除は、法律が用意した控除を要件どおりに使うもので、正当な「節税」です。一方、売上を除外する、架空の経費を計上するといった隠蔽・仮装は「脱税」になります。

この場合、電子帳簿保存法第8条第4項のただし書により、優良な電子帳簿であっても加算税の軽減は受けられません。また、過少申告加算税に代えて、より重い重加算税が課されます。

加算税の軽減は、正しく記録している方の「うっかりミス」の負担を軽くする仕組みです。優良な電子帳簿にすれば税務調査で有利になる、という性質のものではありません。制度上の効果は、控除額と加算税の軽減に限られます。

また、制度の趣旨に反する不自然な取引などで税負担を減らそうとする「租税回避」も、節税とは区別されます。青色申告特別控除や加算税の軽減は、法律が予定しているとおりに要件を満たして使うものなので、租税回避には当たりません。

法人の場合は?優良な電子帳簿のメリットと判断のポイント

青色申告特別控除は個人事業主の制度なので、法人が優良な電子帳簿を選ぶメリットは、主に過少申告加算税の軽減になります。

法人が受けられるメリット

税務調査などで申告漏れを修正した場合、優良な電子帳簿に記録された事項に関する部分の過少申告加算税が5%軽減されます(原則10%→5%)。国税庁の電子帳簿保存法取扱通達では、法人税・地方法人税・消費税について、加算税の計算の基礎となる税額の全部が軽減の対象になるとされています。

準備で気をつけたいこと

  • 対象になる帳簿は、仕訳帳・総勘定元帳だけではありません。売上帳・仕入帳・売掛帳・買掛帳・固定資産台帳など、国税庁が具体例として示す帳簿のうち、自社で作成しているものが対象です。
  • 事業年度の初日から、要件どおりに保存している必要があります。途中から整えても、その事業年度は対象になりません。設立したばかりの会社は、最初の事業年度から対応しておくとよいでしょう。
  • 会計ソフトを乗り換える場合も、以前のソフトのデータを要件を満たした状態で保存し続ける必要があります。印刷して書面で保存する方法では、加算税の軽減は受けられないため注意しましょう。
  • 届出書は、適用を受けたい事業年度の法定申告期限までに提出しましょう。

判断のポイント

帳簿の種類が多い会社ほど、準備の負担は大きくなります。お使いの会計ソフトが補助簿まで優良な電子帳簿に対応しているか、経理の体制で要件を保ち続けられるかを確認したうえで、加算税の軽減という「備え」が手間に見合うかどうかで判断するのがよいでしょう。

まとめ

優良な電子帳簿の導入は、義務ではなく「選べる制度」です。令和9年分以後は、個人事業主の青色申告特別控除が最大75万円に引き上げられる一方、適切な準備が求められます。

判断にあたっては、まず条件となる「期限内のe-Tax申告」ができているかを確認し、次に「75万円控除や加算税の軽減に、手間に見合う価値があるか」を検討します。

導入を決めた場合は、その年の1月1日(法人は事業年度の初日)から要件を満たした運用を始め、申告期限までに届出を提出しましょう。

なお、法人の方は加算税軽減の価値と補助簿まで含めた準備の手間を中心に検討するのがポイントです。

弊事務所においても、個人事業主・フリーランスや法人化などの税務申告・開業全般サポートに力を入れておりますので、疑問点や不安がある方は初回無料の相談窓口まで、お気軽にお問い合わせください。

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