小規模法人ができる節税の基本|やってはいけない節税との違い

利益が出始めると、多くの方が気になり始めるのが「節税」ではないでしょうか。
しかし、実務において最も大切になるのは、「合法的な節税」、「違法な脱税」そして「リスクの伴うグレーな節税」の境界線を明確に理解しておくことです。
どれだけ税負担を減らせたとしても、税務調査で否認されて追徴課税を受けたり、積み上げてきた信用を失ってしまったりしては本来の目的を見失うことになってしまいます。
本記事では、小規模法人や一人社長が知っておくべき、手堅い節税の基本ルールから、やってはいけない間違った節税パターン、さらには手元に資金を残して会社を成長させるための正しい手順までを分かりやすく解説します。
節税・租税回避・脱税の違い
まずは、税務における「3つの境界線」の違いをしっかりと押さえておきましょう。
| 区分 | 定義・実態 | 税法上の扱い | 代表的な例 |
| 節税 | 法律のルールに従って、国が認めた範囲で税負担を適正化する行為 | 完全な合法 | 役員社宅の活用、未払費用の適切な計上など |
| 租税回避 | 私法上の選択肢を駆使し、法令の「隙間」を突いて税負担を免れる行為 | 税務調査で否認リスクが高い | 実態と乖離した組織再編や、税逃れのみを目的とした不自然な取引など |
| 脱税 | 売上の除外や架空経費の計上など、事実を隠蔽・装う違法行為 | 違法(重加算税・刑事罰の可能性あり) | 現金売上をポケットに入れる、架空の領収書を計上するなど |
経営者が目指すべき基準は、国のルールや通達に基づいた正当な節税です。税務署に対して根拠を説明でき、事業の手元資金を確実に残せる施策に絞って実行していくことが大切です。
節税を考える正しい順番
「節税したいから何かを買おう」「保険に入ろう」と、いきなりお金を使う施策から始めるのは注意が必要です。節税策を実行する際は、キャッシュアウト(資金の持ち出し)が少ない順に検討を進めるのがよいでしょう。
STEP1 : 手元の現金を一切減らさない「制度の適用漏れ・未払費用の計上」
STEP2 : 将来への投資や積立を兼ねた「課税の繰延べ」
STEP3 : 事業に必要な資産の取得やサービス導入に伴う「支出を伴う節税」
STEP1:制度の適用漏れ・未払費用の計上
まずは既存の取引や税制の優遇措置を見直し、払う必要のない税金を徹底的に抑える仕組みを作ります。手元の現金を減らさずに実行できるため、安全かつ最優先で取り組むべきアプローチです。
税制優遇や控除の「適用漏れ」を防ぐ
「賃上げ促進税制」や「中小企業投資促進税制」など、国の中小企業向け優遇措置を活用します。これらは自社から申請・申告しないと控除されないため確認が必要となります。
賃上げ促進税制
従業員やパートの給料を引き上げた場合に利用できる制度です。適用年度が赤字で税額控除を使い切れなかった場合でも、控除枠を最大5年間繰り越せる措置が用意されています。赤字脱却期・利益拡大期の小規模法人にとっても使いやすい制度です。
中小企業投資促進税制・中小企業経営強化税制
機械装置やソフトウェアなどの設備投資を行った際、特別償却または税額控除が選択できます(適用期限:令和9年(2027年)3月31日まで)。対象設備や計画認定の要件を満たしているか、事前に専門家と確認しましょう。
【令和8年度税制改正による賃上げ促進税制の注意点】
令和8年4月1日以後に開始する事業年度からは、教育訓練費の増加に応じた上乗せ措置(控除率+10%)が廃止され、中小企業向けの最大控除率は45%から35%へと引き下げられています。
一方で、大企業向け・中堅企業向けの措置は段階的に縮小・廃止される方向にあるのに対し、中小企業向けの措置は今後も存置される方針が示されており、引き続き中小企業にとって使い勝手のよい制度として運用される見込みです。
決算期をまたいで賃上げ計画を立てている場合は、事業年度によって控除率が異なる点にご注意ください。
期末時点の未払費用を正しく処理する
当期中に発生・利用済みで支払いが翌期になる未払費用(当月分の給与、社会保険料の会社負担分、光熱費・通信費、クレジットカード利用分など)は、当期の経費(損金)として正しく計上しましょう。
立替経費や、引当金を漏れなく計上する
社長が個人カードで支払った交通費や会議費の計上漏れがないか確認するほか、回収前の売掛金に対する「貸倒引当金」などを経費として漏れなく計上します。
STEP2:課税の繰延べ(経理処理・共済等)
次に検討したいのが、今期の利益を圧縮して税負担を軽減しつつ、将来のリスクや投資のために資金を社外へ貯蓄する課税の繰延べ(税金の先送り)です。
代表例である「経営セーフティ共済(倒産防止共済)」などを活用する際は、以下のポイントを押さえておく必要があります。
今期の税負担を抑えつつ資金を蓄えられる
年間最大240万円(累計800万円まで)の掛金を全額経費(損金)にでき、40ヶ月以上納付すれば解約時に元本が100%戻るため、会社の資金リスク対策にもなります。
解約時の「出口戦略」が必須
戻ってきた解約手当金は、全額が益金(利益)として課税されるため、課税の繰延べは「税金を消す手法」ではなく、あくまで支払う時期を将来へ先送りする仕組みです。そのため、「役員退職金の支給」や「大規模投資」「赤字の期」など、大きな経費が発生するタイミングとぶつけて相殺する「出口戦略」までを計画しておくとよいでしょう。
解約後2年以内の「再加入ルール」
税制改正により、現在は解約後2年以内に再加入した場合、その掛金を損金(経費)にできません。安易な解約・再加入の繰り返しは節税効果を失うため、中長期的な計画が不可欠です。
経営セーフティ共済をはじめとする定番の節税策については下記の記事で詳しく解説しています。

STEP3:支出を伴う節税
お金を使う節税で重要なのは、「経費を使っても節約できる税金は約3割(法人税率約30%の場合)で、手元の現金は残り7割減る」という仕組みを正しく理解しておくことです。
例:節税目的で100万円の買い物をした場合
経費 : 100万円
減らせる税金:約30万円
手元から失われる現金:70万円
税金を払いたくないという理由だけで買い物をすると、節税額以上に手元の現金が減り、自ら資金繰りを圧迫してしまう可能性があるため注意しましょう。
支出を伴う節税を行う際は、以下の基準を満たしているか確認することが大切でしょう。
・事業成長や業務効率化につながる投資か
・経営セーフティ共済のように、万が一の際に資金返戻や融資を受けられるか
・向こう半年〜1年間の運転資金に十分な余裕があるか
業務に必要なパソコンや備品は「少額減価償却資産の特例」を活用
業務で使用するパソコンや備品(40万円未満)を購入する際は、年間合計300万円まで購入年度の経費に一括計上できる「少額減価償却資産の特例」が効果的です。
通常、10万円以上の固定資産を購入した場合は法定耐用年数に応じて数年間に分けて減価償却(経費化)しなければなりませんが、青色申告を行う中小企業・小規模法人であれば、一定金額未満の資産を取得した年度に全額を一括で経費(即時償却)に計上できます。
【2026年最新ルール】少額減価償却資産の特例の要件
取得価額の上限: 1点あたり40万円未満(税制改正により30万円未満から引き上げ)
年間合計限度額: 1事業年度あたり合計300万円まで
対象事業者: 常時使用する従業員数が400人以下の中小企業者等
適用期限: 2029年3月31日まで
※40万円未満の基準が使えるのは令和8年(2026年)4月1日以後に取得した資産からです。同日前に取得したものは従来どおり30万円未満が基準となります。判定は決算期ではなく「取得日」で行うため、3月決算以外の法人・個人事業主は同じ年度内で基準が分かれる点にご注意ください。
本特例の適用を受けるには、損金経理に加えて確定申告書に明細書(別表16(七))を添付する必要があります。
また、取得価額20万円未満の資産については、全企業が使える「一括償却資産」(3年間の均等償却、償却資産税の対象外)という選択肢もあるため、資産の金額帯や償却資産税の負担も踏まえて、どちらの制度を使うか計画的に検討するとよいでしょう。
事業に必要な投資であれば、この特例を活用して当期の利益を安全に圧縮することが可能です。具体的な概要や注意点については、中小企業庁ホームページを参照してください。
やってはいけない節税・危ない節税
税務署は、小規模法人が陥りがちな「無理な節税」や「不自然な処理」を熟知しています。税務調査で否認される典型的なパターンを知っておきましょう。
実態のない経費・架空計上(脱税行為)
最も悪質なケースであり、脱税とみなされる行為です。
・家族や親族への名義貸し(架空人件費)
実際には業務を行っていない親族を役員や従業員に仕立て、給与を支払った形にして経費化する。
・私的費用の混入
家族旅行の費用やプライベートな飲食費、生活費、個人で使用する物品の購入費などを「研修費」や「交際費」名目で経費処理する。
・バックデートや領収書の捏造
決算日以降の取引を当期のものに見せかけたり、架空の請求書を発行する。
これらは税務調査で容易に見抜かれ、通常の税金に加えて最も重い、重加算税や遅延損害金(延滞税)が課されるだけでなく、悪質な場合は刑事告発の対象にもなる可能性があります。
目的を見失った「税金を減らすための無駄遣い」
違法ではないものの、経営判断としてやってはいけない節税となります。
・決算間際の過度な節税保険や無駄な備品購入
利益が出そうだからと、解約返戻率の低い保険に駆け込みで加入したり、使い道のない備品を大量購入したりする行為。
・短期での共済解約・再加入の繰り返し
経営セーフティ共済などを短期間で解約・再加入しても、2年間は掛金が経費(損金)にならないため節税効果はありません。
・過剰な役員報酬の設定
期首に高く設定しすぎて会社の資金が底をつき、資金繰りが行き詰まるケース。
節税より優先すべきこと(資金繰り・融資審査への影響)
経営において最も避けたいのは、赤字ではなく資金不足(黒字倒産)です。節税だけを目的とした支出を重ねると、かえって会社に残る現金を減らし、経営基盤を弱体化させる原因となります。
納税を経て残った当期純利益の積み重ねが、会社の自己資本を増やし、銀行からの信用を底上げします。
・銀行融資での評価が下がるリスク
節税をしすぎて決算書の利益や自己資本比率を極端に低く抑えてしまうと、銀行から「収益力や返済能力が低い会社」と判断され、融資審査で不利になる場合があります。
・手元資金の不足
どれだけ節税しても、税金をゼロにすることは困難です。節税のために無理な買い物を重ねた結果、納税期日に現金が足りなくなる会社は少なくありません。
適切な手元資金を蓄え、銀行からの信用を高めるためには、「払うべき税金はしっかり払い、手元資金と純資産を増やす」という本質的な経営方針を持つことが長期的な成長につながるでしょう。
税務調査が来やすい会社の特徴や日頃の備えについては、下記の記事で詳しく解説しています。
顧問税理士がいると何が変わるか
節税対策は、決算直前に慌てて取り組もうとしても、選択肢が限られてしまいます。
自社に合った効果的な節税をしっかり狙うためには、期中からの計画的な税金対策が欠かせません。
税理士のサポートを受けると、以下のようなメリットがあります。
利益と税金を早めに予測できる
決算の数ヶ月前に「今期の着地利益」を予測し、想定される税負担額と実効性の高い節税策をあわせて提示してもらえます。
社内規程を整えて正しく節税できる
役員社宅や出張旅費規程の導入など、適正な計算と規程づくりを行うことで、税務調査でも堂々と主張できる明確な根拠や書類を用意できるようになります。
日頃から「万が一の税務調査」に備えられる
「どんなポイントを質問されやすいか」をあらかじめ想定し、経費として認めてもらうために必要な書類(議事録や報告書)を日頃から残せるよう、具体的なアドバイスを受けることができます。
まとめ
節税の本来の目的は、税金を減らすことそのものではなく、「事業を成長させ、手元に資金を残すこと」です。
税金を払いたくない一心で無駄な支出を重ねたり、万が一にも不正な処理に手を染めてしまっては、会社の資金繰りを自ら圧迫し、かえって会社を苦しめる結果となります。
自社に合った安全で効果的な節税を実現するには、決算直前ではなく「期中からの計画的な準備」が不可欠です。
まずは専門知識を持つ顧問税理士を活用し、将来の事業成長と資金繰りのバランスを見極めながら、正しく手元資金を残す節税策を進めていきましょう。
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